yumiの記憶保存帳

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がたん、がたん、ごとん……バスが走る振動。浅い眠りに入っている圭子の体には快かった。ずるり、と桃色のマフラーが首から崩れ落ちる。圭子は目を覚ましたが、頭を冷たい窓にもたらしたままでいた。ネオンのきつい光りが目に付く。まだ七時だが、冬はあっという間に太陽が消えてしまって、人工的な電気が夜の街を支配する。圭子の住む街は結構都会なので、夜遅くまで人が多く、光が多い。ぎゅっと目をつぶって唇を噛んだ。目的の停車所に着いたので、かばんを背負って運転手に定期を見せて降りた。はあ、と息を吐く。マフラーを巻き直す。冬は嫌いだ。孤独な気持ちがする。かじかむ手を擦る。周囲を眺めると、見慣れた光景。大きいスーパー、パチンコ、ずらり建っているマンション達、いずれもぎらぎら光っている。しかし、マンションの群集の前にある割と大きい公園は、数本の外灯はついているが、ひっそりと暗い。小さい時はかなり遊んでいたが、高校生になってから一回も行っていない。そういうものなのだろう。ぎゅう、と腹がなる。朝、母がパートで晩御飯を作れない、と言っていたのを思い出して、憂鬱になった。(もう、めんどくさいから、カップ麺とかでいいか)と思いながら、ビュンビュン怒った顔をした車が走るのを横目に歩き出す。
と、暗闇になった。
 頭の中で急に疑問のクエスチョンマークが膨れ上がった。(何、これ。)、視界の明度が急に下がってしまったみたいだ。両目に手を置いて、一息吐いてからまた見ても、やはり暗い。周囲をじっと見ると、違和感に気付く。全てのネオンが消えているのだ。まだ七時過ぎだ。閉店した訳ではないだろう。ぼうっとしていると後ろから警察のバイクが通って、信号の近くに止めると、道路の脇に立って腕を振り始めた。そうか、信号が消えたのだ。赤も、黄色も、青もついていない。無言だ。車は戸惑ってスピードを落としていく。それでも日常を続けていこうと、走っていく。停電か。それもけっこう大きい停電。自転車のおじさんが、「停電だ、停電だ。」と呟いて慌てて通り過ぎた。自分の手を眺める。本来の色は分からず、ひっそりと青褪めている。自分の足元も暗い。少し恐怖がわいて家路を辿っていった。マンションの11階の左端。エレベーター動かないから、階段。しんどい。カップ麺も、電気オール式だから、作れない。
「めんどくさいな」
すると、目に公園が入ってきた。外灯がまだ光っている。ふっと、なんとなく行ってみようか、という気になった。光に集まる虫の気持ちとはこんな感じなのだろうか。羽をバタバタ振って目はただ光だけを見つめて、闇から逃れるために……。

 公園に踏み入れると、遊具がひっそり眠っているのが見えた。中心には子供達が登るドーム式の建物、周辺に色んな動物の固い像、さらにはブラコン、砂場、鉄棒、滑り台、などがある。眺めているうちに、思い出が頭の奥深くからよみがえってくる。ブラコンで男の子と奪い合いでケンカしたり、鉄棒の逆上がりができてすごく嬉しかったとか……。遊具達は夜のせいか、少し不気味だが、優しい目をしていた。突然声をかけられた。
「……圭子か?」
振り向くと、ドーム式の建物の上に男の人がいた。
「圭子、おれ佑だよ。小さい時よく遊んでたじゃん」
ブラコンでケンカした男の子。かなり一緒に遊んでいた。中学生になってから過疎になり、高校から一回も会わなかった。
「え……佑?なんでここにいるの」
「そっちこそ」
と佑は苦笑いした。佑は登ってきたら?と言った。少し躊躇したが、非日常な状況に勇気をもらって、数分で登った。
「大停電だね。テレビにでるかも」
「うん。真っ暗だね。ここだけは灯りついてるけど」
佑はちょんちょん指で上を指した。顔を上げると、黄色い月と満天とはいえないけども星がちらばっていた。佑は笑って、「上にもあるじゃん?昔は、月は灯りだった」と言った。
「ああ、そうか……なんていうか月は夜のシンボルでしかなかった」
「ま、わかるけど。俺さ、小説で『本当の闇』ってあって、村上春樹のなんだけど、今日停電して、『見れるんじゃないか』と思ってきたんだけど、よう考えたら違ったわ。あれは、茂っている森の奥深くだった。電気が消えてもまだ光はあるんだ」
「……佑、大きくなったね」
それは圭子の本心だった。夜だとぽろり本音が漏れる。
「圭子も大きくなったよ。中学校いらい、どうしてた」
そこから二人はゆっくり思い出や学校のこととかを話し合った。最初はぎこちなかったが、お互いの顔が薄闇の中にあることも助けて、幼い頃に戻った。
「ほらさ…、あのブランコでケンカしたじゃん。どうしてケンカしたかは忘れたけど」
「ああ、あれは、圭子がずっと譲らないからおれが怒ったんだよ。三十分も漕いでたし」
「え、本当?そうだったかな」
…………一時間くらい経って、御待たせ致しましたというように、電気が甦り始めた。信号がつき、ネオンが戻り、マンションに光がついた。それは劇的で妙に美しかった。見ていると、ほっとした気持ちになった。
「ふふ、変だな。いままで、ネオンは嫌いと思ってたけど、今甦るのを見てたらちょっと安心したよ」
と佑を見ると、佑の顔がはっきり見えた。昔よりも大人っぽくなっていた。携帯が鳴った。見ると、既に九時で、母の心配するメールだった。
「私、もう帰らないと。お腹もすいたし」
「そうだな。あ、メアド交換しない?」
うん、ええよ、とお互いの携帯をくっ付けて、赤外線交信した。液晶が青く眩しい。

 家に着いて、母に公園に行ったことは隠して謝り、晩御飯(結局二人でカップ麺)を食べて、お風呂に入って、電気を消して寝床につこうとすると、佑からメールが来た。布団に横たわって、液晶の中の文章を読む。
『我らは二十世紀の都会っ子である。いつも光にまみれた生活をしているから、今日の停電はいろんな事を教えてくれた気がする。たまにはいいもんだな。また会おう。』
私は暗闇の中、液晶からあたたかみを感じて、微笑んだ。
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天女様 

天女様っておられるんかなあ……と呟いてベランダで麦茶を飲んでいたら、
後ろの部屋の照明が消えたのが、自分の周囲の影が消えたことで分かる。振り向くと、お母さんが私に気付かずにそのまま寝室に入っていった。やれやれと思いながら、うちもそろそろ寝るかと腰を上げかけると、おや。
安っぽい柵と上の階の天上との間にきらり、と何かが通るのを見かけた。それはそのまま下に落ちていくようである。
飲みかけのガラスのコップを下に置き、柵に手を置いて地上を眺めると、流れ星じゃなかった。女の人だった。
なんか這いつくばって呻いているようである。どうしたのだろうか。助けにいったほうがいいのかしらんと思いながら注視していると、マンションの正面の向こうの道路から自転車に乗った体の大きな男がやってきて、女の人を見つけると自転車を放り出して女の人のもとへいく。おおよかった、多分女の人はドジでなんかしたのね、よくわかんないけど、と思っていると、男のでかい怒鳴り声がここまで聞こえた。ええっと、「馬鹿やろう!」とは言ってた。おお、こわ。
きらりと光ってたのは気のせいだったのね、少し眠たいし、と思い直して、コップを取り、居間に入りベランダに通じるガラスのドアを閉めていると、ベランダの柵の境界線からぬっと男の頭が出て、女の人の頭が出て、自転車が現れて、二人乗り自転車だ、と思う間もなく、上の境界線に消えてしまった。

黒い空間 



黒い布を纏って顔の上半分を隠したおばあさんが言った。
「若さを失う勇気を養いなさい。そうしないと、死んでしまうよ」
とても可愛らしい女の子は首を傾けて、目を見開いた。
「若さを失うって、ありえるのかしら。わたしには訪れないのではないかしら」
おばあさんはとても哀しそうに笑って、
「あるんだよ。誰にでも訪れる。永遠のものはないのだから」
女の子は鈴のついた裸足をぴょんぴょん跳ねさせて、美しく踊った。
細くてまだあまり肉の付いていない体を黒い空間に任せて、気ままにくるくる回った。
「でも、おばあちゃん。わたしはこんなに元気で動けるわ」
おばあさんはしわがれた手をのばして、少女の腕を取った。
「おまえの瞳の色は、何かね」
「見たら分かるでしょう、水色よ」
「そう。そう……そうだね」
おばあさんは微笑んで、きらりと涙を一粒零し、被っていた黒い布を剥がし取った。
そうすると、黒い布は黒い空間につながっていたのだろうか、カーテンをはがして手元に収めるように、
空間から黒はだんだんと消えて、普通の世界に戻った。
少女ははっと気付き、おばあさんを探したが、どこにもいなかった。
すると、向こうから少女の名前を呼ぶ声がする。応えて、待っている間、
ざわざわと緑の木が葉をこすっているのを見て、少女は自分の目の上に手を置いた。
「見つけた!どこに行ってたんだよ。突然居なくなるからびっくりしたじゃないか」
笑いながら女の子の元へ駆け寄った男の子は驚いた。女の子が泣いている。
「どうしたんだよ、何か嫌なことがあったのか?」
「ううん、ううん、違う……違うよ……」


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